このごろのこと
このごろの私はなにかがちょっと前と違う。それがうまく説明できないのだけど、心の中の真ん中の部分の奥のほう、そんなわけのわからないところで、なにかが動き出した。
冬中、土の中で養分を吸ってじっとして一生懸命呼吸した幼虫が春になって地面からこそこそっと抜け出す。そんな感じ。それはほわっとした得体の知れない感じなのだけど、それが何倍にもなったような不思議な感じが、ある。
それは、この2001年のせい。今年は世界中でいろいろなことがあった。みんな、誰もが、今生きているということを改めて意識したようなそんな一年だったような気がする。
そしてそんな大きな世界のちっちゃな日本の国で、もっともっともっとちっちゃなある場所で、密かに息してる存在のとてつもなくちっちゃな自分でさえも、心からあふれ出そうなくらいの様々な出来事があった。いいこともイヤなことも。
この間、21年間飼っていた猫のルルが死んでしまった。21年間も生きていたから、人間で言ったらどれくらいの年になるのかわからないけど、100歳は軽く超えていると思う。この2年くらい、夏の暑さは辛そうで、食欲もないときもあったから、老衰と言えば老衰なのかもしれないけれど、この間のある日のお昼頃、突然、事故にあった。
いつもリビングのルル専用の椅子の上に湯たんぽを置いてもらって、そこで丸くなっているのに、母が掃除をするので窓を開けた瞬間に部屋から勢いよく飛び出した。お天気のとてもいいお昼だった。そしてすぐに、ルルは車に当たってしまった。そのときは軽くあたった程度で大丈夫だったらしい。すぐに別の車の下に逃げ込んでいたそうだ。それから、母はずっと様子を見ていたそうなのだが、午後も具合の悪そうな感じはなくて、ただ妙に母に擦り寄ってきたらしい。不安だったのかなあ。。。そして、夕方、いつも座っている椅子の近くでルルは死んでいたそうだ。
私がそのことを聞いたのは、その日の夜だった。ルルに会いに行ったら、ルルはとってもキレイな顔をしていた。死んでしまったルルを見ても、目を覚ましそうで、すぐには実感がわかなかった。でも、時間が経てば経つほど、じわじわっと寂しくなってきた。
ルルは本当に面白いヤツだった。メス猫なのだけど、すごく気が強くて、ご近所の猫としょっちゅう喧嘩をしていた。しかも自分からふっかけたりしている。こんなに年をとっても、ついこの間も喧嘩をしていたのだから血気盛んなヤツだった。
うんと若い頃は、夜になってもなかなか家に入らないで、母と2人、いつもルルの捕獲作戦で手を焼いた。だいたい、夜の9時頃から11時頃まで、それは続いた。一度外に出してしまうとなかなか部屋に戻らない。猫なのだから、そのまま外に出しておいたっていいのだけど、そうすると夜中に「にゃお〜ん」と悲しそうな声でなきだすので、ご近所迷惑になる。だから私たちは必然的に捕獲作戦をしなければならない。母が鳥かごを持ってくる(もちろん、飼っている鳥入り)。その鳥に興味を示したアホなルルが近寄る。そして私が外から廻ってきて、ルルを後ろから掴まえる。・・というストーリーをほとんど毎日のように行うのだが、だんだん馴れてくると敵もあっぱれなのである。部屋の外から、私たち人間の様子をガラス越しに窺っていたりするのだ。そうするとそんな作戦ではダメで、また作戦を立て直す。毎日、私たちは、狐と狸の化かし合いみたいだった。
キッチンのほうの扉を「トントン」なんてノックしてくることもあった。どんなふうにやっているのか一目見たくて、外から見てみると、ルルは伸び上がってドアをノックしていた。マンガみたいだった。
ルルのことを書くと、書ききれないくらいの量になるだろう。それくらい、本当に面白かった。ルルのおかげで家の中の笑いが絶えなかった。
あまりにも近い存在で、なんて言っていいのか言葉が見つからないけど、やっぱり(ありがとう)と心から思う。そしてきっとこれからもルルは、私の膝のところにたまにやってきて、「なんか美味しいもの、ちょうだい」って、生意気そうに言っている気がする。
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