2000.2.3

数センチのパワー 

 風邪を引いた。なんとかは風邪を引かない・・・っていうことわざ通り、あんまり風邪に好かれない私なのに今回はとても長かった。5日くらい37度から37度5分くらいのたらっとした熱が続いたので頭がぼうっとしてとてもだるかった。でも、貼るタイプのホカロンと熱い食べ物のおかげで、やっと治った。
 不快な日にちが数を重ねたおかげで、生活も工夫を凝らすことが多かった。食べ物はもちろんのこと、あるとってもシンプルな工夫が思いの外症状を快復させてくれた。それは窓際にぴったりと着けてあったベッドを、ほんの数センチだけ窓から離すことだった。
 明け方になるとちょっと震えるくらいの冷気が窓のほんの隙間から入ってきて、完全に眠っているのに(寒い・・・)とこのところ毎日のように思っていた。そして必ず一番上に掛けている布団がベッドの脇にたら〜っと垂れている。身体の半分くらいに布団が掛かっていないことはほとんど毎朝の現象だった。ベッドの位置を眠るときだけちょこっと窓から離してみるという工夫を全くしていなかったのである(気づかなかったとも言えるけど)。ちょっと面倒だけど、寝る前にベッドをずらしてみた。するとどうでしょう〜。明け方の冷気もないし、布団が落ちることもなくなって、目覚めるまでとてもあったかだった。こんな工夫を今までしないでいたなんて・・・。
 それより何より、たった数センチ、ベッドの位置をずらしただけで、天井を見ると新鮮な世界が広がっていたのである。これには本当に驚いた。たった数センチずれただけで、見えてくるものが違うなんて・・・。そんなちょっとの変化でおかしいかもしれないけど他の家に泊まっているような感じもあった。風邪を引いたおかげでちょっと得した気分(治ったからそう言えるんだけど)。
 たった数センチで世界が変わることって他にもある。靴の高さもそう。7センチくらいのハイヒールを履くと突然颯爽とした気分になれる。道行く女の子が小さく見えたりして、なんか自己満足の極致になったりする。そう考えると、最近の20センチ近い厚底靴の女の子たちって、ものすご〜〜く世界が変わるのだろうなあ。あれなら強気になるだろうな。端から見ていて格好悪いなって思うのだけど、そのことも履いている当の女の子たちはちゃんと知ってそう。知っていてもやめられないし、あの不思議なロボットみたいな靴のブームが去らないのは、全身にパワーというか強気さがみなぎるからかもしれない。一度足を入れたら、「どこからでもかかってらっしゃ〜い!」っていう気分になれるのかもしれない。そのかわり、靴を脱いだときの反動は大きいかもしれない。敗北感が湧いてきそうだもん・・・。厚底ブームは当分続くような気がします。

2000.2.22

「黒い十人の女」 

 このところ胸が痛くなる事件が多すぎて、本当に現実なのだろうか?と目を覆いたくなる。そしてその現実に輪をかけるように、ひどく言えば、たたみ掛けるように創られているようなTVドラマを目にすることがたまにある。いったいいつからこんな風潮になってきたのだろう。だからこそ、自分にとって良いドラマに出会うとなんだかホッとしてしまうのだ。
 ドラマはもちろんのこと、映画もそうだ。「自分にとって良い映画」に出会うと、日常に大きなご褒美をもらったような気がして嬉しくなる。しかもそれは大々的にコマーシャルされているようなロードショーものではなくて、小さな映画館で上映されている作品や、レンタルビデオ店で何気なく見つけた作品の中にあったりすることが多い。だからこそ見っけもの!なのである。
 映画は割と観ているほうだと思うのだけど、ずっと以前は、わかりやすいアメリカ映画がスカッとして好きだった。けれどもこの頃はフランス映画や、アメリカ映画でもかなり昔のもの、そして日本映画でもかなり昔のものが心をくすぐる。
 私の好きなフランス映画はエリック・ロメール監督の作品である。このホームページにも何度か書いているけれど、ロメールの洞察力やイヤになるくらい会話ばかり・・・というのがなんともグッときてしまう。一度観ただけでは会話の中身を納得できないこともある。以前、池袋の小さな小さな映画館の会員になったことがあるのだが、それはロメール映画の特集というプログラムを組んでくれたからだった。その1ヶ月間というもの、自分のスケジュールの中心がロメールの映画になっていた。回によっては、たった2〜3人しか観客がいないのだけれど、同じものを何度も観て自分なりに心の中で消化していった。
 フランス映画では、ロメールがいちばん好きだけれど、ゴダールやトリュフォーもやっぱり好きだ。彼らの映画の時代は「ヌーヴェルバーグの時代」と言われている。
 そして大昔の日本映画には、そのヌーヴェルバーグの香りの漂う作品がある。作家たちもフランスの香りに遠く憧憬を感じていた人がいたように、映画監督にもそういう人たちが存在した。
 前置きがとても長くなってしまったけれど、市川昆監督の1963年の作品『黒い十人の女』にはそんな香りを感じて脱帽モノだった。カメラアングルといい、ストーリーといい、登場人物といい、「格好いい〜!」のひと言に尽きてしまう。ストーリーを簡単に言うと、1人の男をめぐって10人の本妻含め愛人たちが共謀して、彼を殺そうと計画を企てるのだ。これだけ書くと、今起きている残虐な事件に近い?と思うかもしれないけれど、違います。愛憎渦巻くなんていう血生臭いものではなく、とってもシュールなのである。女たちはひとつの意志を持って団結したのだけれど、いざというときになったら本妻は愛人たちの前で旦那を殺したふりをして、速やかに彼女たちの心から旦那の影を消そうと仕向ける話なのだ。かといってその後も本妻が旦那にベタッとする話ではないから気持ちいい。その本妻役は山本富士子で、旦那役は船越英二。愛人役には岸恵子、宮城まりこ、中村玉緒、岸田今日子などなど、とても豪華絢爛なキャストで、そのどの人たちも役柄がぴったりはまっている。その中で、岸恵子と山本富士子はとても格好いい!!女だからこそ、惚れてしまう。背筋のピンとしている他人に全く媚びない女なのである。今の女が強いと言っても、この人たちには本質的に圧倒的に負けてしまうだろう。スクリーンには女優の「生き方」も映し出されている。冒頭で黒ずくめの女たちが一列に早足で歩いているところの格好良さと面白さ。おすすめ!です。