2000.4.5

桜の雨 

 今年の桜が咲いてから、今日ははじめての雨の一日だった。
 このごろ私は年が経つごとに「桜」が大好きになってきている。冬が終わってほんの少しだけあったかくなってきて、ついこの間までの抜けるような冬の青空とは打って変わって、空は黄砂の影響かどんよりとする。春は晴れの日でも青色に薄いグレーの絵の具をほんの少しスポイトでたらしたような鈍い青空だから、そんな空には薄桃色の桜の花はよく似合う。
 こどもの頃の桜の花は「入学式」や「始業式」や、学校のはじまりを知らせていた。緊張タイプのこどもだった私には、桜の花は規律正しい優等生っていう感じがしてさらに緊張を高めるのであんまり好きではなかった。もっとパ〜ッとシンプルに明るいチューリップや、夏のヒマワリの花が大好きだった。もちろん今でもチューリップやヒマワリは大好きな花だけれど、そこに「桜」も加わったのは本当についこのごろのことなのである。
 桜の木の下を上を向いて歩くと、ついこの間までこの花が咲いていなかったのが信じられないような気分になる。1年のうちでたった2週間くらいしか咲かないこの花は、とても豪華な感じがする。一片一片の花弁を見ると、たくさん集まるとあんなに豪華になるとは思えないほど、静かで儚げな薄桃色なのに。
 以前、アメリカで桜の花を見たとき、あまりの濃いピンクだったことに驚いた。それはそれでとっても華やかで気分は高揚したのだけれど、日本の桜の花を見慣れているから不思議な感じがしてならなかった。
 鈍い青空に咲く日本の桜には「春爛漫」という言葉とは裏腹に、憂いや寂しさがある。
 春の始まりを告げる桜を見て、私が緊張を感じなくなったのはいつからなのだろう。そして、憂いや寂しさを感じるから桜を好きだと思えるようになっている変化にほんの少し驚いた。