1999.3.17

トイレの蛍光灯〜その1〜

 今から1年前の3月の終わり、1通のメールが届いた。
 それはかなり遠い昔、中学時代の同級生の男の子からのメールだった。男の子・・・なんて書いては申し訳ないけれど、メールから音声が聞こえてきそうなくらい、彩り鮮やかに彼を思い出した。
 「うわ〜、Kくんったら全然変わってないよお〜」それが嬉しくて嬉しくて、なんだか居ても立ってもいられなくて、今でも付き合いのある中学時代の友達に、早速電話したりした。
 そしてKくんに返事をしたら、話が大いに盛り上がってしまって、とにかくその頃の仲間みんなで早いうちに集まろうということになった。
 私の通っていた中学は東京都下のいまだに田園風景の広がるところにある公立中学である。
 とにかく今でもそうなのだけど、「ここが東京なの?」って首を傾げるくらい、疑いたくなるくらい、地方のちょっとした都市よりもかなり田舎といえようのどかなところに、その中学はあった。
 毎日、近道をするために、畑の中の道を歩いては靴に泥が付くのは当たり前。近くの農家では酪農をしているところもあり、中学の近辺は牛小屋のにおいがぷ〜んと漂っていて、のどかさに拍車をかけていた。
 文化祭の練習の後、ちょっと暗くなった帰り道、キャベツ畑の中から男の子たちが「わっ!!」なんておどかしに出てきたりして、こんなに毎日がのんびりと楽しくていいのか?な〜んて、今の状況を振り返ることもないほど、それほどにのどかだった。とにかくその環境や状況に疑問を感じるハングリー精神も起きないくらい安定感のある毎日だったように思う。きっとその当時の都内の中学の中では「大らかさベスト3」に入るくらいの学校だったように思う。いや、もしかしたら1位をもらえたかもしれない。
 目立ったいじめもなく、せこさもずるさもなく、誰彼なく遊べる。成績の良し悪しなんて全く関係ない。そういう大らかさって独特のものだったように思う。
 最近になって地方出身の人からイヤミのように「東京の人は・・・」って言われる度に、心の中でなぜかいつも中学時代のことを思い出す。今はもうそんなことに反発する気力もなくなったが、そんなときは(ふ〜んだ。余裕があるのよ、東京人は・・)って呪文のように唱えることにした。そうするとなぜか中学時代ののどかさが甦ってくるのだ。
 話は戻るが、メールをくれたKくんは、中学2年のときに同じクラスであった。彼は成績優秀で特に理数系にその能力が遺憾なく発揮されていた。しかもそれはそれは明るいキャラクターで、「トイレの蛍光灯」のように、かなりエネルギーを無駄に発散させているところもあった。しかしそのエネルギーの無駄遣いについては、私もすごかった。だからそのことについては意見を書くのはやめることにする。
 Kくんと、もうひとりのKくんと、Sさんという女の子と私の4人でなぜか(たぶん偶然)同じ班になったのだった。班なんて懐かしい響き!
 それから班ノートなるものを担任から強制的に義務的に書かされたのだが、我が班は、最終的に大学ノート40冊くらいを使ったのであった。それは脅威的だった。班替えをしてもまだそのメンバーによる班ノートは続いていたのだから、しつこい性格の人員で構成された班だったのだろうか。
 その班ノートには、とにかくありとあらゆることを書いた。殆どがなんだかクスッと笑ってしまうような内容ばかりだった。落ち込んだ日でも、その班ノートにお茶目な自分を出していると自然に解消されることがあって、悩みの濃度を薄めてくれるようなそんな作用があった。
 そしていよいよ久々の再会となった。

1999.3.17

トイレの蛍光灯〜その2〜

 久々の再会は男性3名、女性8名で行われた。みんなそれぞれの人生を進んでいるけれど、集まって話していたら中学時代の教室に突然戻ったようだった。
 トイレの蛍光灯は、新しい蛍光灯に取り替えられたばかりのように一段と煌々と輝きを増していた!でもあの頃と違うのは、今はインバーターで目にやさしい光をあったかく放っているランクアップした蛍光灯になっていることだった。
 その夏の再会は和やかに滞りなく終わり、そしてまたつい先日、2回目の会が催された。
 3月だったのでそれぞれ事情もあり、なぜか集まれたのは前回の男性3名と女性は私ひとりであった。男性3名のうち2名は例の班のメンバーだった。前回で話し足りなかった数々の思い出話が真っ盛りで、やっぱり話が尽きない。
 企業マンの2人は景気の話になった。もう一人のKくんとさらにもう一人のKくん(なぜか3人ともKくんなのだ)は小・中・高・大と一緒で長い付き合いになっていた。さすがに就職先は全く畑の違うところだけれど、それでも企業ということで共通項はあるのだろう。メールをくれたKくんは大学院を卒業した後、研究所に勤務しているためあまり不況とは関係ないようだった。
 しかし景気の話で落ち着いた雰囲気になっても、またテンションは元に戻る。誰かの話に誰かの話がかぶっていて、人の話を聞いていない状態(それは私だ)になっていた。
 すっかり中学時代の自分に戻っている自分がいた。「お前、喋らなければいいのになあ〜」とかさんざんひどいことを言われても、な〜んとも思わず、むしろ久しぶりに他人から「お前」なんて呼ばれていることが快感でさえあった。
 予約していたお店は時間制限があったので場所替えをすることになった。歩きながらも、とにかく喋り続ける。今度は、消し忘れたトイレの蛍光灯状態だった。
 終電のこともあるのであと1時間・・と決めて歩いていた私たちは、カラオケBOXの勧誘のお兄さんに声を掛けて(?)カラオケに行くことになった。
 最初は「カラオケに行くと話せないからなあ〜」なんて言っていた私たちだったが、いざマイクを持ったら大変な状況になっていた。1時間の予定が2時間近くにオーバーしていた。
 それからまた駅の構内でも、4人の声は重なりあっていた。駅構内の明かりはいつにも増して明るくて、寒い日だったのにやたらに暑かった。