重症患者のモニターのデータ処理とその活用

磯田貴義       


プロローグ
「東大小児科、Mac活用の実際」の連載4回目の今回は、重症患者のモニターのデータ処理について、同科の磯田先生に取材した。モニターのデータ処理におけるシステムは、昨年の8月に導入され、本格的に研究利用への模索が始まったのは、つい最近のことで、同科のMac活用の中でも最も新しい活用法のひとつである。構築されたシステムをどのように活用していくか―その進捗状況と、今後の展開における構想をお伝えする。

システム構築とその目的
このシステムはアメリカのバイオパックという会社が開発したMP100というアナログデジタル変換装置、およびAcqknowledgeという解析プログラムがその中枢であり、信号変換されるデータは心電図、心拍、呼吸、血圧、パルスオキシメーターの酸素飽和度、そしてプレチスモグラフィ(末梢の脈圧)である。さらには、今年中に持続的に測定された心拍出量、中心静脈の酸素飽和度、深部および表面体温等のモニターのアナログデータをデジタル信号に変換して、コンピュータ処理できるようにシステムを整備する予定である。さて、磯田先生らがこのシステムを導入するに至った目的は、患者の様々な生体情報をコンピュータにデジタル記録し、それを分析することにより生体情報間の関数関係を解明することにある。生体情報の複雑な絡み合いによって、病気の原因は形成されており、関数関係を解析することは疾患要因の解明に寄与するものと考えられる。ところで、今までもモニターのデータの記録、解析は、或程度可能ではあったのだが、専用の装置とそれに対応したプログラムが必要であり、非常に高価であったという。ところが、最近のめざましいパソコン普及とコンピュータ処理システムの進歩を背景に、MP100/Acqknowledgeのような比較的簡単で安価なデータ記録解析システムが開発された。特にこのシステムは汎用性があることが利点である。
「持続の心拍出量のモニターや中心静脈酸素飽和度のモニターなどは、今まで、あまり見られなかったものですから、デジタル信号への変換に関してこれに対応するシステムとプログラムがありませんでした。それに対して我々が導入したシステムでは、比較的簡単に新しく導入したモニターにも対応させることができるのです。多種のモニターのデータを統合的にコンピュータ処理することが可能になったこと、その操作方法もコンピュータの専門知識を要せず、簡単であること、そして単純なネットワークを構築すれば、どこからでもモニター情報にアクセスしデータを解析できることが、このシステムの主な利点ですね。」

コンピュータネットワークの利用
病棟にあるモニターには、アナログデジタル変換装置であるMP100を介してPowerBookがつながっており、ここにインプットされるモニターのデータはリアルタイムにコンピュータ画面に表示され、記録終了後に解析することができる。(原則的には患者一人に専用のPowerBookが配置され、患者につけられた複数のモニターのデータが、MP100を介してそのPowerBookに取り込まれることになる。)これらのデータは、敷設されているコンピュータネットワークのイーサーネットを利用して、小児科のどのMacintoshからもアクセスすることができる。さらにアップルリモートアクセス(ARA)を利用し、電話線を介して院外からのアクセスも可能だ。実際、磯田先生自身、自宅からアクセスして遠隔操作を試みておられる。
「我々スタッフにはパスワードが与えられていて、ベッドサイドのコンピュータへ辿りつくようになっています。データの解析は、ベッドサイドのコンピュータを遠隔操作して行うこともできます。もちろん自宅のコンピュータへ、データを転送してから解析してもいいのですが、通信容量の問題から遠隔操作する方が現実的ですね。」
基本的なコンピュータネットワークさえ敷設されていれば、当プログラムとリンクさせて、どこからでも利用できることは、多忙な磯田先生らにとっては、大変価値あることであろう。遠隔操作に関しては、Timbuktu Proというソフトが使われており、画面情報の転送もストレスのないスピードで行うことができる。

活用拡大への模索
磯田先生らの研究グループのテーマは、「循環生理」である。テーマに適したデータの表示、記録、解析を行うためにAcqknowledgeというソフトを使用しており、フーリエ解析(様々な形の波をサインウェーブに分解して、その和として表わす手法)などは瞬時に行えるという。
「我々の目的は、基本的な生体情報の複雑な絡み合いを解明することです。つまり、心臓手術後などの病的状態や、薬物投与での生体の変化をモニター可能な生体情報から予測し、適確な処置を考えることにあります。このシステムのおかげで、第一ステップである各生体情報間の関係を把握するということは容易になったといえますね。」
磯田先生のお話を統合すると、第一ステップへの道が開かれたところであるが、東大小児科の機動力を鑑みると、ここから新しい医療が確立する日もそう遠くないだろう。

エピローグ
東大小児科の連載は、一応今回で終了ということになる。菱先生を中心とする各スタッフの努力によって、“医療におけるヒューマニズム”という思想は、その進歩と研究成果の中で着実に具現化されていっていると言えよう。連載中の1年程の間は立ち上げ期であった。さらに1年後、どのように進化しているか、ぜひ追加取材させていただきたいと考えるものである。

インタビュアー:大伸社 吉田 紀子     

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Edited by Toshio Hishi