「パリのランデブー」はエリック・ロメール監督の1994年の作品。「7時のランデブー」「パリのベンチ」「母と子1907年」の3話で構成されている映画で、ロメールの17本目の映画。
 「時には思い違いもある、思わぬ出来事もよく起こる。」という歌詞の歌声がアコーディオンの伴奏とともに現れて、なにやらふしぎな感じのオープニングなのだ。
 ロメールの映画はとても彼が70才を過ぎていると思えないような、なんていうのかなあ、夏の朝のような、もぎたてのトマトをかじるようなそんな新鮮さがある。みずみずしくて初々しくて、だけどすご〜く恋をしている人の心の裏側を読み切っているような、登場する男の子は、可愛くて、でもどこか浮気者で、不器用で、ちょっといい加減。女の子はどちらかというと理路整然としているタイプが多くて、口で男の子を負かしてしまうタイプが圧倒的に多い。そのくせ人がいないところでは泣いていたりする、そういう強がりなタイプ。
 非常に恋の本質を突いているというか、きれい事じゃない、人の心の機微を表すのがロメールはとても上手い!ほら、人間が生きている限り、ステキな人には心を奪われるじゃないですか。表向きと心の中って言うのは別だったりする。で、そういう機微を見事に、それこそ1秒1秒くらいの移り変わりでも見逃さずに描いているのです。私がロメールにはまった理由はそれなのです。セリフの言い回しにしても、「うわ〜。そうそう、そういう気持ちってある〜。」と思わず唸ってしまうくらい(どうしてそんなことがわかるの?)って映画を観ながら腕組みをしてしまうくらい。
 パリに興味を持った理由は、ロメールの作る作品に拠るところがかなりある。「パリのランデブー」の他にも、「モンソーのパン屋の女の子」(1962)、「シュザンヌの生き方」(1963)、そして1996年の「夏物語」、まだこれしか観ていないけど、どれもぐいぐいストーリーに引き込まれてしまう。80才になっても90才になってもロメール監督にこういう映画を作ってほしいと、切に切に願ってやみません。




 1話「7時のランデブー」
   エステルは女子大生。オラスっていう恋人がいるんだけど、なんだか最近彼は別の女の子と浮気をしているみたい。心配になって友達に相談したりしているうちに、市場で別の人に声をかけられる。それで7時にポンピドーセンターの近くのカフェで待っているって言われるんだけど、後で気がついてみたら、その人はスリだったみたい。がっかりしょげているところにおさいふを見つけてくれた女の子が訪ねてきた。はじめて会ったのにその女の子に事の顛末を話すと、なんとその子もそのカフェで自分の彼氏と待ち合わせをしていると言う。で、二人でそのカフェに行ってみた。
 なんとそこにはエステルの彼が待っていて、つまり彼の浮気相手はおさいふを届けてくれた女の子だったのだ。当たり前だけど、エステルにも彼女にも愛想をつかされたその彼。2人に逃げられてただ呆然とするのであった。そして別の席にはエステルに声をかけてきた男の子がエステルを待っている・・・・。




 2話「パリのベンチ」
 パリ郊外に住む男は大学教師。女は同棲中の男がいるのだが、なぜか二人は付き合っている。二人が語り合いながらセーヌ河岸を歩いている。リュクサンブール公園、サン=ヴァンサン墓地、ベルヴィル公園、ヴィレット公園、モンスリ公園、トロカデロ庭園、オートゥイユ庭園・・・とにかく二人は毎回毎回歩いてばかりのデート。歩いて喋って、それだけでストーリーは展開される。女は同棲中の彼にはもう愛情を感じていないのだが、まだ別れるまでは踏み切れていない。
 ある日、パリ市内のホテルに観光客のようなふりをして宿泊する約束をする。ところがそのホテルの前で女の彼が見知らぬ女性と歩いているところを見かける。それを見て男が、これで別れることに障害は無いだろうというのだけど、女はなぜか「彼がいないならあなたも必要がない」と言って、男を振りきって駆け出すのだ。




 3話「母と子1907年」
 パリに住む画家が、スウェーデンから来た女性を連れてピカソ美術館にでかける。でも出掛ける道すがらも制作中の絵が気になって仕方が無く、自分は美術館には入らないから8:00に外で待ち合わせをしようと約束をして家に戻ることにした。
 ところが戻る途中で、一人の女性に一目惚れをしてしまうのだ。そっと後をつけると、なんとその女性は、今自分が出てきたピカソ美術館に入っていく。画家は考えたけれども、また美術館に入るのだ。でもやはりさっき別れたばかりのスウェーデンの女性に遭遇してしまう。そこで、彼は嘘をつくのだ。「ピカソの絵でどうしても気になってしまうのが1枚ある」と。一目惚れした女性はピカソの「母と子1907年」を観て何かメモをしている。そこにわざわざスウェーデン女性を連れていって後ろから絵の説明を始めるのだ。そんなことをしていたら、一目惚れの女性は立ち去ってしまった。急いで彼はスウェーデン女性を残したまま、一目惚れの彼女を追いかける。そして話すきっかけを作って自分のアトリエに連れていく。そこで自分の思いを伝えるが、彼女は取り合わない。
 傷心の画家は8:00にスウェーデンの女性と待ち合わせした場所に行くが、いくら待っても彼女は来ない。