2004.9.9

 音 楽


 8月31日、ギタリストの白柳淳さんのライブを主催しました。
白柳さんとは友だちの瀧ちゃんのパーティ(@軽井沢)で初めて会い、みんなと親睦を深める交流の場の中、白柳さんの奏でるギターの音だけが気になってしまい、人とのお話もそっちのけでかぶりつきで聴いてしまいました。人柄のいい白柳さんは、私の熱中している様子に演奏をやめらなくなったようで、何時間も演奏をしてくれました。そんなことがきっかけで仲良しになり、今回、ライブをすることになったわけです。
 白柳さんの演奏の何が素晴らしいか・・というと、テクニックはもちろんなんですが、それ以上に心というか、一瞬の音をていねいに大切にしていて、まっすぐに心に響く音なのです。またオリジナルがとてもいい曲で何回も聴きたくなってしまう音楽なのです。彼の作曲のテーマは、たとえば、映画「ナージャの村」(チェルノブイリの原発事故で村を追われた人たちが放射線に汚染されている故郷の村に人間らしい生活を求めて生きるという映画)を観て、本橋成一監督の姿勢に感銘を受け監督に曲を送り、気に入ってもらい試写会で演奏することになったり、倉敷の大原美術館で見たギュスターブ・モローの「雅歌」というタイトルの絵に感動して、そのタイトルと同じ曲を作ったり、蛍や五月雨や川や藤の花や鏡池などの自然に感動をして曲を作ったり・・・とほんとうに感動していることで曲を作っているというすばらしさがあるのです。演奏はしっとりとしていて優しく大きく包み込んでくれるような音で、お話すると関西弁で明るく楽しくお話されるので、白柳さんのそのギャップも好感の持てる面白いところです。
 彼の音楽を聴いていると、自分のピアノの腕ももっと磨かなきゃと触発されます。私は「eclair(エクレール)」という名前のピアノトリオ(バイオリン・チェロ・ピアノ)を組んでいて、年に数回、コンサートもしていますが、今年は6月に「FETE DE LA MUSIQUE」というフランスの音楽祭で演奏してから、活動がおやすみなのです。メンバーのひとりが大学院生で論文のラストスパートに入り、練習している場合ではないので、ちょっとの間おやすみになったのです。だから今はすこし寂しい。はやくまた活動再開したいなぁ。コンサートで人前で演奏することは緊張しているけれどワクワク感がたまらなく気持ちいいのですが、でもそれよりも私は練習が大好きです。練習好きなんて変かもしれないけど、3人で、ああでもないこうでもない・・・な〜んて休日に合わせているとあっという間に一日が経ってしまいます。予定を何時間もオーバーなんて、しょっちゅうです。3人とも練習好きだから、やめるというタイミングを計れなくて、終わる頃には周りは真っ暗、すごく疲れてヘトヘトなんだけど、なぜかテンションだけはやたらと高くなっています。
 子どもの頃から練習が大好きだった私は、練習するなんて思わずに遊びでやっていたんでしょうね。たとえば、後ろ向きでピアノを弾いたり、目をつぶって1曲を完全に弾いたり、雨の音・風の音・イヌの声・笑い声なんて音符に書けないような音を弾いてみたり、弾き語りしてみたり、勝手に作曲したり、そんな気ままな練習だったので、1日に何時間もピアノに向かっていることがふつうのことでした。もちろん、外でたっぷり遊んで家に帰ってきてからですけれど。親も「なにを弾いているのかなあ?この子は」ときっと思っていたんでしょうけど、「ちゃんと練習しなさい」なんて、一度も言われたことがなかったので、それが音楽を続けられた理由なのかもしれません。

2004.9.13

 クレールの膝


 昨日、日仏学院で「クレールの膝」という映画を観た。これは、大好きなエリック・ロメール監督の映画で、ロメールさんのことはこのHPの映画のコーナーのところにも書いているが、かなり、私がはまっている映画監督です。この人の作品の何が面白いか・・・というと、やたらセリフがいっぱいで一瞬の心の移り変わりなんかもいちいち説明してしまうというしつっこさ。心の機微をここまで説明したら現実的にとても疲れるよと思うけど、それがなんだかクスッと笑える。それからあまりイケメン俳優が出てこないところ、女優さんはステキな人も出てきますが、いずれにしてもあまり有名な人を起用しないので、ほんとうに現実にそこで繰り広げられているような非常にリアルな感じがするのです。そしてそして、このロメールさんは、かなりの高齢なんですけど、恋愛の映画なんて作らせたらその瑞々しさはなんなんですか?とびっくりしてしまうくらいステキなじいさん(?)なのです。
 「クレールの膝」は、何年か前に「エリック・ロメール特集」っていうのを数年前まであった池袋の小さな映画館(高田の馬場には今でもある映画館の姉妹館)でやっていて、ロメールの映画三昧の日々が1ヶ月くらいあり、そのために私はその映画館の会員になって、毎日、仕事帰りに9時頃から始まる映画を観て12時頃に帰宅するという楽しくもとても大変な毎日を送っていました。そのときに「クレール」は観ているのですが、なにしろそんな過密スケジュールで観ているものだから、真剣には観ていたものの、いろんな話がごちゃごちゃになっているところもあったので、昨日は2回目だたけれど、とっても新鮮でした。
 ひとりの、これで年貢の納めどきだと思っている中年の男(主人公)がいて、その人には近々結婚する予定の冷たそうな雰囲気の美女のフィアンセが存在し、そんなときに、昔の恋人のオーロラ(小説家)に彼がヴァカンスで湖畔をまわっているときに会い、そこで過ごしているオーロラの親戚の若い女の子ローラに恋をされてしまった主人公はちょっとそのローラをからかい混じりに軽く誘惑してみたり、そうかと思うと、今度はやはり若くてきれいなクレールのスタイルに惚れてしまい、とがっている膝に触ってみたいという欲望を持ち、偶然にもクレールの彼の浮気を目撃した主人公はそのことをクレールに教えて泣かせてしまい、その泣いているクレールの膝を「突然降ってきた雨」というアクシデントに紛れて触ってしまって、それで自分の欲望はすっかり満たされたからこれで心おきなく結婚できるなんて言ってしまうという、なんとも素っ頓狂なお話なんだけど、とにかく観ていて、ロメール独特のクスッと笑えるおかしさと、その主人公に対する気持ち悪さと鼻で笑っちゃうような女心をわかってないなとバカにしてしまう気持ちと、ローラがちょっと気の毒のように思えてしまうところと、クレールはたしかに色っぽいなと思えるところと、2時間のうちにいろんな感情を味わえていて、やっぱりとても面白かった。
 ロメールの映画を私が好きなのは、そういうところなんです。短い時間の中でいつもはそんなに開けないような単純な感情の引き出しじゃない隙間、喜と楽の間、怒と哀の間、はたまた喜と哀の間、または楽と怒の間・・・のような、そんなふうに単純ではない感情の引き出しを開けられる感じがあるから新鮮な気持ちになるんだなあと、帰り道であらためて思った。