1999.10.4

合わせ鏡

 とってもミーハーだけど、この数カ月の間、フジテレビの「めざましテレビ」とテレビ朝日の「やじうま新聞」の星座占いを必ず見ている。今までそれほど占いなんて執着しなかったのに、このところなんだか気になる私。
 最初は何気なく見ていただけのテレビの占いだったのに、必ず見なければ気が済まなくなってしまった。朝の準備も、その占いの時間はテレビの前にいられるようにうまく時間を合わせている。
 毎日見ていると、占いっていうものはますますとっても気になるものだということがわかってきた。2つの違う番組を見ているので、同じ星座占いでも全く違う結果になることがしょっちゅうある。そういうときは、どこかおめでたい性格のせいか、自分にとって都合の良かったほうを採り入れることにしている。
 占いの結果がとても素晴らしかったとする。「今日はいいことがある!」って元気に歩いていると、やっぱりなんだか今日はいい日かも・・と思う(思いこみが激しいヤツ)。その調子でワクワクしながら通勤電車に乗り込むと、いつもの電車の混み具合なんかどうってことがなくなる。移り変わる車窓の景色もいつもより爽やかに、格段に美しく見えてきたりする。そしてそんな一日の終わりは、それはそれはいい気分で眠りについたりする。
 しか〜し。そんな気分っていうのはなかなか続くものじゃない。ずっとこの調子でいければいいのだけど、やっぱり憂鬱な気分の日も突如として登場する。そしてそんなブルーの気分が顔を出してくるとあの元気さはなんだったのかな?っていうくらい、グレー色が頭をもたげてくる。そういう気分は自分が感じているよりも遥かに、接している人にも影響を及ぼすものである。
 良い運気を身体いっぱいに受け止めているときは、発している空気も淀んでいなくて澄み切っているからなんだかとても気持ちがいい。その澄み切った空気が自分の周りにあるときは、なんだか周りの人たちも澄みきっているようなそんな気がする。もちろんこれは逆も言える。澄み切った空気の持ち主のそばに行くと、なぜか自分も澄み切ったような気がしてくる。ところが、あまりに淀んだ空気を自分が持っているとき、余りに澄みきった空気の持ち主に近付くと、途端に息苦しくなることもあるから要注意である。
 そう考えていると、自分と自分を取り巻く周囲の人はいつでも鏡を見ているようなものだなと思う。できるだけ歪んでいない鏡を持ちたいし、歪んでいない鏡になりたいなと思う。
 それと同様に、歪んでいない合わせ鏡を持ちたい。自分の裏側(内面)を自分自身できちんと点検できるような合わせ鏡は「私」を創るには重要なアイテムだと思う。

1999.10.5

待合い室の人々

 目の充血がひどくなって近所の眼科に行った。
 コンタクトレンズをしているせいか、ときどき目が充血する。しかも右目ばかり。
 去年の夏も同じ様な理由で眼科に行った。そのときは以前住んでいた家の近所の眼科だった。朝の9時、開院と同時に学生さんたちや主婦の人や小さいこどもたちでいっぱいになるその眼科はかなり繁盛している。先生は50才くらいのベテランで、とてもてきぱきと仕事をこなしている。しかし、なぜか私はその先生との相性が悪かった。3度くらい通ったのだが、3度目は思わずキレそうになったのである。
 ソフトコンタクトレンズしかしたことのない私は、ソフトが目にはあまり良くないことも知っている。なんでも、角膜に傷が付いてもソフトだと装用感がいいためにかなりひどくならないと気づかないそうだ。ハードは普通の使用時もほんの少しだけ違和感があるから、目のトラブルのときは敏感に反応するらしい。・・・というコンタクトをしている人は誰でも知っているようなお約束の話を、その先生は何度も何度も言うのである。しかもその言い方がものすごく嫌味な言い方なのである。「何度も言いますよ。まったくねえ、目に異常が起きてるんでしょ。しょうがないなあ。だったらねえ、ハードにしなさい、ハードに」 
 断っておくが、強い者に牙をむく私であっても、かなりの心配性なのである。だから大抵、病院に行くと医者の話はきちんと聞く。借りてきた猫状態になってしまう私だ。
 でもこの眼科では違った。とにかくなにか、この先生の言い方にはいちいち「トゲ」があって、私を素直にさせなかった。心を開けなかった。最初と2度目は仕方なく頷いていたけれど、3度目に同じことをエンドレステープのように言われたときは、返事をしなかった。そしてその無言の反抗をする私に、やっぱり先生はむかついたらしく、最後はもっと語気を荒くしていた。
 というわけで、その眼科にはあれから行っていない。
 話を戻そう。ついこの間行った眼科は、家から走って2分くらいのところにある。内の様子も全くわからないし、人が入っていく様子も見たことがなかったけれど、とりあえず入ってみた。
 中に入るとこぎれいで、受付には美しく品のいいおばさまが座っていた。待合い室に目をやると、お年寄りの方ばかりが座っている。6人くらいいたけれど、みんなとても静かで朝から目をつぶっている。以前の眼科とは対照的にかなりのアダルトモードである。
 診察室もよく見えて、先生も60才くらいの超ベテランでもの静かそうな先生だった。なんだかホッとしていると、おじいさんが検眼をしていた。80才はとうに過ぎているおじいさんはものすごくゆっくりと一歩一歩検眼表に近付いている。先生から「○○さん、見えるところまで進んでいいですよ」と言われて、「ふわぁ〜い」というものすごくゆっくりの返事をした。そしてかなり前に進んで読み始めたのだけれど、検眼表の食べかけドーナツをどうやって読んだら良いのかわからないらしく、おじいさんはとても困っていた。しまいには「そっち」とか「あっち」とか言っている。しかし先生は全く困った様子もなく、ベテランらしく上手に対処していた。
 おじいさんは一度待合い室に戻されたのだが、座るとすぐにこくっと居眠りを始めてしまった。ちょっと心配になった。
 そのおじいさんに気をとられていたら、受付のところで、美しいおばさまに身の上話をはじめたおばあさんがいた。受付の人が「あらぁ、それはまぁ、ようございましたね」と優しく言うとおばあさんはまたまた嬉しそうに話を始める。
 そうかと思うと、待合い室の別のおばあさんたちは二人で朝からなにやら興奮気味に怒りモードで話を始めた。どうもご近所のお話のようだ。
 どういうわけか、来週もこの眼科に行くのが楽しみになった。