会頭講演

これからの医療における小児科医の役割    柳澤正義(東京大学医学研究科小児科学)
 社会の急激な少子高齢化、疾病構造の変化などを背景に、小児医療は大きな転換点に立っているように思われる。昨年春、第101回日本小児科学会で白木会頭はr小児医療から成育医療へ」と題する会頭講演でその変革の方向を示され、また、国立小児病院は成育医療センターへ発展する途上にある。現在の小児医療は、慢性・重症疾患の診療や高度先進医療と、プライマリケアあるいはコモンディシーズの診療とに二極分化する傾向にあるが、実際上、後者により大きな問題が含まれているように思われる。小児のプライマリケア、乳幼児健診、予防接種、学校医・園医など、小児科医が担うべきだと考えられながらも、従来、歴史的に他科医師も担当してきた領域があり、さらに慢性疾患のキャリーオーバー、思春期の患者、学童・生徒の心の問題など他診療科医師や臨床心理士との役割分担あるいは連携がこれから問題となる領域もある。また、都市化、核家族化の進行する少子社会で、家庭・社会の育児機能の低下に対して、子育て支援への小児科医のより積極的な取組みも求められている。このように小児科医自身の意欲、国民からの要望がある一方で、現在の医療保険制度のもとでの小児医療の不採算性があり、小児科医は減少傾向を呈し、小児医療の現状を維持することさえ、困難があると考えられる。このような状況のもとで、小児科医として行わなければならないこと、小児科医がこれからもっと積極的に取組まなければならないこと、子ども運の両親から期待されていること、これらを小児科医自身がどのように考えているか、一度整理してみることは、小児科医の専門性を主張し、アイデンテティーを再確認するうえでも意味があるであろう。このような観点から、かねて小児科医の間で議論されてきたいくっかの問題について日本小児科学会評議員、日本小児科医会役員の先生方を対象にアンケート調益を行った。内容は、先に挙げたような、小児科と他診療科との接点にあるような問題について、小児科医がどのように関わり、またそれが現状で可能か否かを問うたものである。厚生省心身障害研究、あるいは、日本小児科学会で行った小児科医、小児医療の現状についての調査結果を下敷に、アンケート調査の結果を加えて、これからの小児医療における小児科医の役割、あるいは進むべき方向を考えてみたい。 


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